会長挨拶

会長挨拶

 

  放射線利用の歴史の中で,地球環境規模で放射線場を変動させるような放射線関連事件・事故等を経験してきた。1955年に公布された原子力基本法の基本方針に示されているように民主的,自主的,公開といったオープンな原子力利用が法整備されて半世紀以上が経過しています。現在の医療放射線利用は,コンピュータ技術の発展とともに放射線診療機器や周辺機器のハード,ソフトが急速に発展進化をしてきました。あわせて,過去の医師中心の閉ざされた医療から開かれた医療への変遷が医療倫理として確立されインフォームドコンセントや情報公開等が進んでいます。放射線診療は医療に必要不可欠なものとして定着はしているものの,医療放射線の暴露量(医療被ばく,診療従事者の職業被ばくの定量)はオールジャパンとしてのデータが揃わない現状です。国際的な放射線従事者の疫学調査やOECDのデータベースに信頼性のあるデータが示せない国内事情は憂慮すべき事態だと考えています。日本放射線公衆安全学会創設から医療被ばくの把握(定量化),放射線利用の安全評価・確認,リスクコミュニケーション,診療放射線技師の「説明責任」に取り組んで12年が経過しました。今,放射線を取扱う者として医療放射線管理に責任を持ち,情報を蓄積し公開し伝えることが必要だと実感しています。日本放射線公衆安全学会がこれから果たすべき役割は,放射線診療の将来を見据えて微力ではあるが会長として責務を果たしていきたいと考えています。

 

 

平成27年4月1日
会長 清堂 峰明

生涯累積線量100mSvの暫定基準値をどう考えるか

 食品安全委員会は、食品中の放射性物質が健康に与える影響について協議し、その結果、「がんが増えるなどの健康影響が出るのは、生涯で累積100mSv以上被ばくした場合」という基準案を示した。食品を摂取することで体内に取り込まれる放射性物質による「内部被曝」、外部からの放射線による「外部被曝」を合せた数値をその範囲内に収めるべきだという提案に加え、ここで使用された「生涯の累積」という言葉はわれわれに重くのしかかる。

 

 100mSvの放射線量とは、国際放射線防護委員会(ICRP)が、発がんのリスクが科学的な証拠が明らかであると定めたレベルの数値であり、放射線診療の場でわれわれが用いてきた数値でもある。日本人が大地などの自然放射線により1年間に浴びる平均的線量である約1.5mSvと、エックス線撮影などによって浴びる医療被曝の平均2.3mSvは計算から除外されるとある。しかし、国民にとって最大の放射線被曝である「医療被曝」について考えを示す必要がある。

 

 本学会は2003年の学会設立以来、医療被曝の低減を目指した活動を行ってきた。2007年の「医療被ばく説明マニュアル -患者と家族に理解していただくために- 」、2008年の「医療従事者のための 被ばくハンドブック」、2009年の「医療被ばく 患者さんの不安にどう答えますか?」は、本学会の医療被ばく低減に向けた3部作となっている。

 

 思い起こしてみよう。2004年2月に全国紙の1面トップに「がん3.2%は診断被曝」などの見出しで英国医学誌掲載論文の内容を報じたとき、「医療被曝は正当化の判断に基づいて行われ、がんになる線量ではない」と説明してきた。

 

 鉛などによる土壌汚染が社会問題になったころから、烙印や傷痕を意味する「スティグマ」という言葉が不動産鑑定の業界で使われるようになった。根拠のないうわさの「風評」というのに対して、汚染された土地が嫌悪感から地価を下げる側面を持つ「スティグマ」は、一定の根拠がある場合に使われる。

 

 2011年に「イラストでみる 放射線って大丈夫?」の書籍刊行の経緯は、被曝線量が多いCT検査では、診断に必要な情報をもたらす利益(数値化できない)とリスク(数値化できる)を比較するだけでなく、放射線の医学的利用と身体的影響の正しい知識の普及が必要と考えたからにほかならない。

 

 今回、内閣府の食品安全委員会が示した基準案は、福島第一原発事故による放射線への対処についてだけとは言い切れない医療被ばくに対する「スティグマ」でもある。

 

平成23年9月15日
(初代会長)監事 諸澄 邦彦