会長挨拶
2023年3月、当会は創立20周年を迎えました。この20年の間、医療被ばく低減という旗印の下に国民皆様の放射線安全に寄与すべく様々な活動を行って参りました。当会の構成会員は病院や健診施設、クリニック、保健所などで働く診療放射線技師がほとんどです。このため活動の主な舞台は医療の現場であり、対象としては医療行為により皆様が受ける被ばくである医療被ばくと、これら機関で働く労働者が仕事上受ける被ばくである職業被ばくが主なテーマと言えます。転機となったのは2011年東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故のあまりにも深刻な状況でした。当会の名前に関するとおり放射線公衆安全、つまり国民皆様の放射線安全を考えたとき、医療被ばく・職業被ばくだけではなく、広く国民の皆様が生活されている中で意図せず受ける可能性のある公衆被ばくも活動の範囲として考え、発災当時は放射線知識の普及や被害を受け避難をされた方々からの相談・受けたであろう被ばく線量を把握するスクリーニング検査への協力、生活環境に残存する放射線量を調査する”カーボーンサーベイ(Car Born Survy)などを行ってきました。震災から10年以上経過した現在、次第に震災からの教訓・記憶が薄らいでしまうところですが、福島の地には帰還困難区域が存在し、未だに避難を強いられている方も多くおります。当会としても、常に活動範囲として視野を広めていたいと思います。
一方、医療現場では2020年代に入り医療被ばく・職業被なくなどを対象とし医療放射線の安全管理について、法規制を設けることにより各施設において体制を作り管理していくことが進められています。各施設での放射線安全管理義務としては以下の4つが求められております。これは、当会が設立以来、大車輪として普及を進めてきました放射線安全管理についての手法の殆どが役立つ形となり、学会活動の結実として形となりました。しかし形が作られただけでは真の安全管理の進展とは言えません。この枠組みの中で各施設が本気になり放射線安全管理を進めることこそ求められる姿です。当会はまだまだ知識の普及のみならず、放射線安全管理義務の運用に関わる工夫や技術の共有を進めたいと思います。
医療機関の放射線安全管理義務
①放射線安全管理責任者の設置
②職員教育
③管理対象機器の線量把握と記録
④情報共有
放射線が人体に及ぼす影響は原子爆弾被ばく者やチェルノブイリ原子力発電所事故による被害者など様々な事柄から長年の継続調査により徐々に分かりつつありますが、まだまだ未知の部分も多い分野でもあります。このため放射線被ばくによる人体影響の最新治験による知識のアップデートは,学会活動や会員個人の活動を行う上での両輪の取り組みとなり普及に努めたいと思います。
これまで、当会では我が国の医療機関等における放射線安全管理の基礎となる、医療被ばくガイドライン(DRLsに発展解消)、医療被ばく低減施設、施設漏えい線量測定法の確立、各種出版事業などを行ってきました。特に医療被ばく低減施設は当会が設立に大きく関わり全国にも各地に誕生しており今後も普及啓発に努めたいと考えます。
設立20年という節目において当会を俯瞰すると、20年の学会活動をさらに広げる大きな波に乗っている状況です。20周年を迎える今、国民皆様・会員皆様とともにこの状況を共有したいと思います。20年の歴史に立ち、設立以来、当会に脈々と受け継がれている”医療被ばく低減”という誰もが求める旗印の下に、施設放射線管理・医療被ばく低減施設・法令対応・医療被ばく相談、そして公衆ばくの課題と小さな学会ではありますが探求を深めたいと思います。
皆様のご理解・ご支援をお願いいたします。
2023年4月1日 会長 佐藤 洋一