公開合同学術セミナー「医療被ばくを考える」
8月31日(土)京都府民総合交流プラザ京都テルサにおいて公益社団法人日本診療放射線技師会と公益社団法人日本診療放射線技術学会の公開合同学術セミナー「医療被ばくを考える」が開催されました。本セミナーのシンポジストとして本学会から諸澄学会長が日本診療放射線技師会での立場で、藤原理事が医療被ばく低減施設からの立場で参加しました。2名の抄録を紹介するとともに、本学会が委託研究としてその基礎を築いた日本診療放射線技師会を代表する2つの事業についてご理解を深めていただければ幸いです。
・医療被ばくガイドラインの考え方
公益社団法人日本診療放射線技師会 諸澄 邦彦
放射線被ばくは、放射線管理の視点から、①職業被ばく、②公衆被ばく、③医療被ばくの3つの様式に分けられる。医療被ばくは、他の2つの被ばく様式とは異なり、放射線診断、医学研究あるいは放射線治療などを目的として放射線を人体に照射することにより生じる被ばく様式である。
職業被ばくと公衆被ばくに対しては、線量限度が法令等で規定され、厳重な管理が行われている。しかし、医療被ばくに対しては線量限度が定められていない。これは、放射線診断あるいは放射線治療に必要な線量は、患者の病状によって異なり、一律の値で規制する事によって、患者に必要な診断、治療が行えなくなってはならないからである。
また同一の検査であっても、医療機関によって、患者の受ける線量が1桁以上も異なることが明らかになり、患者の受ける線量をできるだけ適正なものにするために、典型的な放射線診断については、ある程度目安となる線量を決める必要のあることが認識されるようになってきた。
医療における放射線使用の判断は医師に委ねられているが、放射線防護の最適化および用いる線量の設定は診療放射線技師の専門的技術によるところが大きい。日本診療放射線技師会では平成12年10月に「医療被ばくガイドライン(低減目標値)」を会告し、スイッチを押す診療放射線技師が、その撮影線量を理解し、医療被ばく線量を低減するための努力を目的にガイドラインを作成した。
診断に比べて治療は非常に高線量の放射線を照射するため、照射部位の絞りと線量計算には厳密さが要求されている。また、線量計測を行う線量計にも、以前から校正のトレーサビリティーが確保されていた。それに対し、診断領域では、各診断行為についての被ばく線量を測定・評価しているところは非常に少ない。診断用に用いられる線量計のトレーサビリティーが近年確立されたが、定期的に校正に出して測定精度を確保している施設が多いとはいえない。線量を評価する場合、通常はこれまでに報告された線量評価の調査報告に示された値から判断する方法が一般的である。
従って、放射線診療従事者が実際にその施設で照射している線量を、自ら定量的に認識して放射線診療を行うことが求められる。
医療被ばくを低減するためには、行為の正当化、防護の最適化がまず正しく行われる必要がある。具体的には、放射線検査を減らす事と1件当たりの被ばく線量を少なくすることである。検査件数を減らすためには、医師や歯科医師が放射線診断を決定する際に その必要性について充分考慮してもらうしか方法はない。 一方、1検査当たりの被ばく線量を減らす努力は、われわれ診療放射線技師の役割である。診断能を損なうことなく、少ないエックス線量で必要な情報を得る方策を常に身に付けておかなければならない。さらに診療放射線技師自身が医療被ばく低減にもっと関心を持ち、放射線の適正利用と適切な防護技術のバランスをうまく保ち、国民を無用な医療被ばくから守るという自覚と責任を持つことが一番重要である。
ICRPの示す診断参考レベルはあくまでも目標値であって、線量限度や線量拘束値のような規制に用いられる制限値ではない。日本診療放射線技師会が示した「医療被ばくガイドライン」は、放射線診療における線量低減目標値であって、各診断行為に対する被ばく線量の測定(推計)と、医療被ばくの最適化に対する実践を医療施設に求めたものである。
・医療被ばく低減施設の取り組み
市立横手病院 藤原 理吉
医療被ばく低減における取り組みの要点は、その施設において放射線を人体に対して照射することを業(統括)とする者が、その責務を認識しまじめに一生懸命責務に取り組むことだと考えます。さらに、市民の安全な生活に価値を置いて安全な医療を構築したことで、その高い動機付けや専門的な知識が豊富であると市民から見なされることです。見なされることが信頼を得ることになり安心に繋がっていくと考えます。
さて、医療被ばく低減施設認定(以下、施設認定という)の受審は決意した年が病院機能評価V6への更新にあたり2年後となりました。その間に研修会に参加して知識を深めました。特に日本放射線公衆安全学会の主催する研修会は非常に効果的でした。
具体的な取り組みは、管理者会議などで他部門へ施設認定受審の説明と協力の要請から始めました。部内では受審担当者を決め、モダリティ別に役割分担を行い、月1回の会議で進捗状況の把握、モダリティ毎に被ばく低減(評価)についての検討、情報の共有、検査毎の被ばく線量を部位毎にImPACTとPCXMCを用いて算出。また、透視(血管撮影)検査やCT検査時の空間線量分布を測定し掲示。透視時の術者の被ばく低減を視野に、検査毎にOver Tubeと Under Tubeの検討、フレームレートの検討、また、被ばく線量はナノドット線量計を用いて評価。マニュアルは被ばく低減という視点から日本診療放射線技師会の提示するガイドライン値と比較して画質という観点で見直しました。
業務システムの改善では、撮影時に医師の「妊娠の有無」の問診が済んでいると伝わるようオーダに項目を追加することに医師の協力が得られました。技師側では一般撮影でAECを使用した場合の撮影時間を「AUTO」の記載から実際の撮影時間を入力する方法に変更。また、透視において電子カルテ上の検査欄にコメント欄を新設して透視時間等を入力することにしました。これらの記載は手間が掛かりますが患者の被ばく線量を推定するために必要です。電子的に被ばく線量の管理が照射録に反映されて欲しいと思う点です。
認定後の認識の変化を聞いたところ、「撮影条件、入射表面線量、透視時間をより意識するようになった。照射野を絞るなど防護を意識するようになった。小児の被ばくで、親が撮影室内で介助する時に事前に説明をして了承を得るようになった。被ばく低減の看板を掲げた以上、何事もあやふやにはできないという思いが常に頭の中にある。」という回答を得ました。
患者への効果は明確ではありませんが、待合の被ばく低減に関する掲示は閲覧しているようです。また、数は少ないですがレントゲン手帳の発行や被ばく相談を希望する患者さんがいらっしゃいます。被ばく低減施設という情報とその選択肢があるということが最大の効果と考えています。当院のアピールや日本診療放射線技師会の国民への啓発が不足しているように感じます。